第 144 号
希望の島フォーラムに訪問して
 2月16日上島町弓削島において、えひめ地域づくり研究会議、財団法人松下政経塾主催の「希望の島フォーラム」に出かけました。元々、今回の島フォーラムは松下政経塾26期生の兼頭一司君とは、以前加古川市で松下政経塾24期生である前川桂恵三氏による「地域主権フォーラム」が『新しい地域と公共の経営〜加古川から未来を考える〜』と題して開催され参加させていた時、松下政経塾 主担当 金子一也氏より、愛媛の西条の出身の26期生の 兼頭一司氏を同じ四国だから将来連携して何か考えたらと紹介されました。其れから何度かメールのやり取りし、彼が松下政経塾の塾方の中で(老人から子供までが笑える町作り)を目指し頑張るレポートを読まして頂き、是非四国に帰って来て頑張ってくれるものと思っていましたが、四国には帰って来ましたが、弓削島とは予想もつかなかったです、何故、弓削島?フォーラムは松下政経塾塾頭 古山和宏氏の開会の挨拶で始まり、基調講演は東京大学経済学部教授の神野直彦氏のよる「地域と人間の回復鍵」のテーマで

 1. 砂のように打ち砕かれる地域経済
    工業社会の終わり
    所有欲求=自然を所有することによって充足される欲求=豊かさの実感
    存在欲求=人と人、人と自然との関係で充足される欲求=幸福の実感
    工業社会=存在欲求を犠牲にして、所有欲求を充足した社会
    所有欲求を求めアングロ・アメリカ型の地域経済再生のシナリオ
    存在欲求を求めるヨーロッパ型の地域再生のシナリオ

 2. 工業社会から知識社会
    働きかける対象としての自然→自然に働きかける手段→自然に働きかける主体
    知識で量を質に置き換える
    高い人間的資質と社会資本
    地域経済の磁場が生産から生活へ

 3. 環境と文化による地域経済再生
    工業によって汚染された自然環境の再生
    人間と自然との最適質料変換を可能にする生活様式としての文化
    生活水準の向上から生活様式の充実
    4万時間の実現

 4. 逆転の使命
    「育ちたい地域」づくり
    中心から適切に距離をおく
    上からでなく「底辺からの発展」を
    資源めぐる競争に勝利するのでなく、
            共同で資源を育むこと
    「先生」を超え、どこにもないユートピアを築く

 5.  予言の自己成就
    わたしは日が照っていないときでも
    太陽の存在を信じます
    愛を感じることができなくても
    愛の存在を信じます

    第二次対戦で被爆されたケルンの地下室に残された言葉

 神野教授のお話は大まかに以上の5点に絞って講演をされました。私の感想としては以前政経塾で勉強した内容ともかぶり、結論からゆうと今の政治、経済社会を壊し、何か新しい道を探さなければ、現在の地球の資源が無くなり(人が生きていくのに必要な生活必需品等)マネーゲームが崩壊した時、今の社会生活が根底からヒックリ変える可能性を秘めているのでは!!

 第二部では落伍家 夕日亭大根心 師匠(若松進一氏)のお話でした、若松氏は、愛媛県伊予市双海町で夕日を観光資源にし、夕焼けプラットホームコンサートで全国的に、双海町を有名にした人物である。
 若松氏の話は地域の活性化は地域に有る遺産、資源の使い方をイロイロ考え、行動を起こす事から始まる、何でも思った事、したい事を勇気を持ってやりとげる行動力があれば地域は変えれる、とゆう若松氏自身の体験談で大変勇気を貰いました。


 最後の締めに登場した兼頭一司氏の話は此れからの若者が生きていく為には非常に興味の有る話でした。 彼の松下政経塾の12月のレポートに書かれている話の入り口だけでしたが内容は次のとうりです。

 あるビジネスマンが、久しぶりに休みがとれて、仕事の疲れを癒しに南の島へやって来た。そこは本当に空気も食べ物も美味しく、自然豊かでうっとりするような景色に囲まれている。住人たちは、人懐っこく親切で、とても明るい。お酒と談笑が好きで、仕事といえば朝方漁に出かけることだが、その日食べる分だけ取れるとすぐ帰ってきて、日もまだ高いうちからワイワイ始めるという具合だ。ビジネスマンは、彼らの奔放さ、無邪気さに魅力を感じながらも、その日暮らしを送る彼らの生き方が、なんだがもどかしくてならなかった。そして3日目の夜についに尋ねてみた。

ビジネスマン 「どうしてもっと魚を獲らないんだ?」
住人     「必要ないからさ。だって明日の分は明日また獲れる。
        新鮮な方が美味いに決まっている。」
ビジネスマン 「それが馬鹿だってんだ。」
住人     「どうしてさ?」
ビジネスマン 「たくさん魚を獲って、マーケットでさばけばお金を稼げるじゃないか。」
住人     「稼いだお金をどうするんだい?」
ビジネスマン 「それを元手に、投資をするんだよ。」
住人     「投資をするとどうなるんだい?」
ビジネスマン 「もっと効率的に、お金が稼げるのさ。」
住人     「さっきから、お金お金っていうけど、そんなにお金を稼いで、
        あんたどうするつもりだね?」
ビジネスマン 「そうだな・・。南の島でのんびり暮らすよ。」
住人たちは互いに顔を見合わせ、不思議そうにこう言った。
       「それなら、そんな回りくどいことしなくったって、
        俺たちは最初からやってるぜ。」
既に述べた通り、これは笑い話です。笑わないで「あ、なるほどね!確かに!」と言ってしまった人は相当重症です。休みを取って、南の島へ行ってしまいましょう。それでもだめなら、北の大地で頭を冷やしましょう。

 彼は今回はここまでの話しをし、島の子供たちとの研究発表をし家族三人で弓削島で生活する意気込みを語りました。けど彼の12月のレポートには続きが有り、今回兼頭氏に許可無く張り付けさせてもらいます。

 ところで、この島の隣に、まったく同じような島があったとしたらどうでしょう?人口も、面積も、ちょうどおんなじくらいの島です。そして、同じような気候と風土と生活風習の中で、住人たちは同じようなのんびりした暮らしを営んでいたとします。おやおや、そこへやっぱり同じように都会から仕事虫のビジネスマンがやってきましたよ。架空の話(おそらく)に、さらに架空のエピソードを加えた新たな物語の始まりです。さて、一体どんな展開が待ち受けているのやら・・・。

果たして、似た顔をもつ二つの島国は、全く異なる運命を歩み始めた。

 さて、元ネタにあった南の島を仮に「ポレポレ国」、その隣の島を「ハラカ国」としておきましょう。
 ポレポレ国にやって来たビジネスマンは、島の住人に軽くいなされてしまった例の一件以来、仕事に追われる毎日で見失っていた豊かさの意味とか、人生の目的といったことについてゼロから考えるようになりました。風の噂では、しばらくのちに会社を辞めて田舎へ移住し、農業を始めたそうです。有機肥料で体にいい野菜を作っているらしいですよ。もちろんポレポレ国の住人たちは、相変わらず、その日の魚を取って食べて飲んで歌って、スローな日々を楽しみながら暮らしています。そんなポレポレ国にビジネスマンが最初にやって来たあの当時、実は海を隔てた隣のハラカ国にも別のビジネスマンがやって来ていたのです。

では、しばらく二つの島国の物語にお付き合いいただきましょう。
 そのビジネスマンは、久しぶりに休みがとれて、仕事の疲れを癒しに南の島へやって来ていた。そこは本当に空気も食べ物も美味しく、自然豊かでうっとりするような景色に囲まれている。住人たちは、人懐っこく親切で、とても明るい。お酒と談笑が好きで、仕事といえば朝方漁に出かけることだが、その日食べる分だけ取れるとすぐ帰ってきて、日もまだ高いうちからワイワイ始めるという具合だ。

それを見ていたビジネスマンが例によってこう切り出すのである。
ビジネスマン 「なんで魚をもっと獲らないんだい?」それを聞いた住人は、笑って答える。
住人     「何でもっと獲らなきゃいけないんだい?そんなに食べられないさ。
        獲るだけ無駄だろう?」
ビジネスマン 「馬鹿だな、それを市場に持ってって売るのさ。」
住人     「市場で売るだって? そんなものは、この島にはないよ。
        魚なんてものはこの島のどこの浜でも獲れるし、山のもんは野菜をもってき
        てくれて、お互い必要なものを買うだけさ。
        物々交換みたいなもんだ。それでみんなが食べられて誰も困らないんだから
        いいんじゃないか?」
ビジネスマン 「だから馬鹿だってんだ。島の中に閉じこもって何も見えてないんだな。
        相手にするのは、島の連中じゃない。世界だよ!いいか?
        これだけ豊かな漁場を遊ばせとくのはもったいない。
        ここで獲れたものを外国へもって行けば、もっと高い値段で、飛ぶように売
        れるんだ!」
住人     「・・・。」
ビジネスマン 「そこで稼いだら設備投資だ。浪費はいけないぜ。でかい船を買って、もっと
        たくさんの魚を獲りまくるんだよ。冷凍設備も必要だな。たくさん獲れると
        きに獲って冷凍して、魚が獲れなくなって値段が上がったときに売りさばく
        のさ。人間の頭は使うためにあるんだぜ。」
住人     「・・・なあ、あんた。わしら何も困っちゃいないんだ。
        なんで、大変な思いをして働いて余分な魚獲って、さらに面倒なことに、
        そいつをわざわざ外国にまで持ってって売んなきゃいけないんだ?」
ビジネスマン 「おいおい、おいおい。お前たちは心底馬鹿だな。
        え?本当にわかんないのか?
        あきれたもんだな。金に決まってんだろ。マネーだよ、マネー。」
住人     「金、か・・。あんたたち外国からやって来るやつらは、二言目には金、金っ
        ていうが、金ってのはそんなに大事なもんかね?」
ビジネスマン 「あったりまえだろ、馬鹿!世の中動かしてるのは全て金の力なんだぜ。」
住人     「あんまり馬鹿馬鹿言わんでくれよ。金をかせいでも、わしらにゃ使い道がわ
        からんのだ。」
ビジネスマン 「ふふふ・・。そうだよな。考えてみりゃ、生まれてこのかた、こんな世界の
        果てみたいな島から一歩も出たことがないってんだから無理ないよな。
        よし、俺様がこれからそれをじっくり教えてやるよ。いいかい?
        世界は、あんたたちが知ってる世界がすべてじゃない。いや、むしろあんた
        たちは世界から取り残されている。
        こんな生活で幸せと思っているのは、あんたたちだけだぜ。井の中の蛙もい
        いとこだ。いいか、俺たちの国では、みんなもっと立派な家に住んで、いい
        車に乗って、きらびやかなショーや映画を見て楽しんでいる。
        食事だって、世界中の色んな食材を使った毎日違う料理を食べられるんだ。
        チャンネルを回せば、世界中のあらゆる情報がはいってくる。
        それらのすべてが、お金で手に入るんだよ。好きなときに、好きなところへ
        行けて、好きなものが食べられる。好きなことができる。
        お金で手に入らないものはない。"Money is all. All is money." だ。
        いいか、女だって、とびきりのいい女が・・・・」

 ビジネスマンはひたすら話し続け、延々5時間半に及んだ。聞いている住人のほうも、最初は、「本当にお金というものが万能なんだろうか?」とか「ほんとうにそんな生活が幸せなんだろうか?」とか疑問の目を持ちながら聞いていたのだが、ビジネスマンの怒涛のような話に圧倒されて、そんな疑問もかき消されてしまった。さらに長時間じっとしていることに慣らされていない彼らは極度の疲労で目もうつろになってきた。そうして、おばあちゃんが無圧布団の購入契約書にいつの間にかハンコを押してしまうかのごとく、その男の主張することが至極全うに思えてきたのである


住人     「ああ、わかった。たしかにあんたの言うとおりかもしれない。
        わしら世界を知らな過ぎた。
        俺たちは馬鹿だった。俺たちは、なんて貧しくて、つまらなくて、不便な暮
        らしをしてるんだろう、って気がしてきたよ。
        わしらも、あんたのいうような、贅沢で、いろんな楽しみがあって、便利な
        生活をしてみたい。」
ビジネスマン 「そうかい。そいつは俺も講義した甲斐があったってもんだ。」
住人     「でも・・・。」
ビジネスマン 「でも、なんだ?」
住人     「やっぱり、わしらにゃ無理だよ。」
ビジネスマン 「おいおい、ちょっと待てよ。なんで、そうなるんだよ?」
住人     「わしらにはそんな生活をしたくても、どうやってお金をかせげばいいかわか
        らん。魚を獲ることができても、どうやって売ればいいかもわからんのだ」
ビジネスマン 「なんだよ、そんなことか・・。よしよし、そんなものは俺がなんとかしてや
        る。あんたたちの前にいるのは世界一級の商社マンだぜ。
        あんたたちのタダ同然の魚を、黄金にかえてやるよ。」
住人     「へえ!?魚が黄金に?そんなことができるのかえ?赤とか青とかの魚はここ
        らの海にゃいっぱいいるけど・・」
ビジネスマン 「馬鹿だな、泳いでる魚が生きたまま黄金に変色するわけじゃない。
        巨大な流通マーケットがあんたらの魚を金に変えてくれるのさ。
        それにはブランド作りも大切だな。PR戦略がカギになる。」
住人     「?????」
ビジネスマン 「ははは・・・。大丈夫、大丈夫。心配するな、俺にまかしとけって。
        俺の手にかかりゃ、ちょちょいのちょいだ。魚だけじゃないな。
        農産品も売ろう。野菜よりも果物の方が高く売れるから、畑は全部果物に切
        り替えよう。木材もたっぷりあるな。
        ブルドーザーを森に入れれば効率よく伐採できるから、当面の稼ぎにはもっ
        てこいだな。そうそう。このひと気のないビーチだって、腕のいいカメラマ
        ンに写真撮らせて、有名コピーライターにキャッチフレーズつけさせりゃ世
        界中から金ヅルたちがバカ面下げて集まってくるぜ。
        そのときに備えて、おバカなリッチどもに受けそうな名物料理とみやげ物、
        高級ホテルも必要だな。ようし、忙しくなるぞ・・・」

 こうして、ハラカ国の住人たちは、一人のビジネスマンの手に未来を委ねた。それまで長い間ずっと続けてきたスローな日々に別れを告げる決心をしたのである。

        

ハラカ国、世界へ。
その後のハラカ国のたどった道はこうだ。

 ビジネスマンは、帰国し、さっそく自らの所属する商社において、ハラカ国の観光や産業の開発を計画する。自国で、大きなポジションを占めるその商社は、政治的にも影響力を持っており、国費からハラカ国へ向けての多額の政府開発援助も引き出すことに成功した。もちろん、その開発による利益は、この商社にたっぷりと還元される。かくしてハラカ国は、市場経済という世界システムの中に組み込まれていく。

 ハラカ国の浜辺は半分がリゾートとして開発され、やしの木より高いものは何一つなかった島の沿岸に、高級ホテルの建設ラッシュが起こる。そして浜辺のもう半分は、埋め立てられ、防波堤やテトラポットで囲まれた立派な港湾設備を備えた漁港や、物資の海外輸送のために加工工場や大型倉庫と直結した貿易港などが着々と出来ていった。

 豊かな原生森は、安価な木材供給源として次々と切り開かれ姿を消し、かつて森のあった場所には、安い労働力を提供する工場として、新たに世界企業が続々と進出してきた。しかもそれらの工場建設が、前述の政府開発援助によって賄われるのである。進出企業も、ハラカ国政府の役人たちも大いに喜んだ。

 島の住人たちは、今までほとんど気にすることもなかった「お金」の魅力にとりつかれる。

 ホテルに港に道路に工場にと、どの建設現場でも人は慢性的に足りなかったし、出来上がったホテルや工場でも同様で、今まで家庭内の仕事を受け持つことの多かった女性や、少年たちも駆り出されていった。そうして、育児や家事といった家庭の仕事は、我々の国で当たり前に利用するのと同様の、それらを専門に代行するサービスに取って代わられる。それまで、島でその日その日にとれたものが並んだ食卓は、輸入された食材をつかった加工食品や外食チェーンでの食事へと変化していた。仮に仕事が早くに終わって家で作ろうにも、近海で取れる魚は商品としてほとんど全てが外国へ行き、地元に流通するものも大半がリゾート客向けの食材となり、価格的にも分量的にも庶民には手が届かなくなってきている。野菜にいたっては、商品用の果樹栽培への切り替えがなされたため、高級ホテルやレストランの間でも争奪戦であり、庶民は新鮮な野菜をほとんど目にしなくなった。かといって工場やホテルへ勤める人々が、かつてのように庭で野菜を育てるなどということをすることもない。新鮮な地元の旬の食材は手に入らなくなったが、金さえ出せば食べるものには困らない世の中になったのだ。

 そのお金も、島の誰もが面白いように稼げるのだ。次から次へと出来てくる店や会社のどこもが、人手が足りなくて困っている。おかげで島の人たちは、より楽な仕事で、より高い給料を得られる仕事を選ぶことが出来る。その結果、企業は労働力確保のためにどんどん賃金を上げてゆく。住人たちが何もしなくとも、給料のほうが勝手に上がってくれるのである。

 最初は、自転車を一台手に入れただけで大喜びをしていた島の人々は、洗濯機や冷蔵庫、自動車と、次々に便利で快適な道具を手に入れていった。テレビやラジオなどの情報メディアも充実してきた。「夢」が、向こうから「現実」となってやって来たのである。
 一方その頃、お隣のポレポレ国ときたら、相変わらずのその日暮らしを謳歌していたのである。

祇園精舎の鐘の音
 イソップ童話の「アリとキリギリス」であれば、ここで話は終わります。働き者のハラカ国は栄光のドリームを手にし、怠け者のポレポレ国は世界に取り残されてしまいました。「皆さん、懸命に働いて競争社会に勝ち残るのですよ。そうしなければ、ポレポレ国の人のように惨めな一生に終わりますよ。」という教訓です。

 ところが、現実は(現実ではないのですが)そうはなりません。この先があるのです。

 日の出の勢いと思われたハラカ国に、徐々に影が忍び寄ってくる。

 まず最初に起こった問題は、環境汚染である。コストを重視した工場の排水処理や排気処理の不備等により、水質、土壌、大気の汚染を招き、島の人々の健康や農林水産物の生産などにも甚大な被害を及ぼし始める。

 住民は、国、企業を相手取って訴訟を起こし、両者の間に大きな溝ができる。やがて和解が成立し、それまでの生産効率一辺倒の姿勢を改め、環境配慮のための処置を企業に義務付け、行政にその監督責任を負わせる法律ができたが、お互いの不信感は拭えぬまま溝は残った。一方で、企業にとっては、生産コストの大幅増加につながった。

 環境問題は、工場による汚染問題だけではなかった。木材輸出や工場建設のために大量の木を伐採し、森を切り開いていったことにより、山の水源涵養機能や土壌保全機能が衰え、しばしば渇水で川が干上がったり、大雨の日には洪水や土砂崩れ、土石流の被害が起こるようになった。いずれも森が黒々とあった当時には、ほとんどなかった災害である。当然、農作物生産にも大きなダメージを受けた。またあれだけ豊かだった漁場も、森の運んでくれた栄養分がなくなって魚の数も種類も激減した。もはや農業も林業も漁業も、人的コスト増も手伝って、この国の主要産業ではなくなってしまったのだ。

 それでも、工場労働など企業のもたらす収益により、食糧は外から輸入し続けることができた。ところが、それもずっとは続かなかった。

 高い経済成長と、国民をあげての所得の大幅な向上により、便利な道具の数々も手にいれ、生活にもお金にも余裕がうまれてきたハラカの人々は、やがて余ったお金を不動産や金融商品などに投機するようになる。お金がお金を求めて移動するという資本の流動化が常態化する。

 しかし、その過程で、投機の過熱が実体経済との乖離を生み、何気ない不安材料をきっかけに投機熱が一気に冷却し、バブルがはじけて経済に大打撃をおよぼすことになる。一瞬にして、企業は多大な債務を抱えることになり、金融機関が自己防衛的に貸し渋り、貸しはがしを行うことで、事業面で好調と思われる企業すら倒産の憂き目にあう。関連する企業の連鎖倒産を呼び、金融機関の多くの債権が不良債権化していくという悪循環にはまり、企業の生産活動と金融システムは機能不全に陥ってしまった。

 ハラカにはグローバル企業にけん引される形でたくさんの国内企業が存在していたが、それらの倒産が相次ぎ、町に失業者があふれ始める。
 しかし、今やハラカ国の給与水準は国際的にみても高い位置にあり、グローバル企業にとって、人的コストや環境コストの高いハラカ国での工業生産はほとんど旨みがなくなっている。

 ハラカの経済危機に伴い、外国資本の企業は、早々にハラカから撤退。この島に富をもたらすきっかけを作ったあのビジネスマンもアフリカのどこかに新たな開発ターゲットを見つけて躍起になっているとかで、とうの昔にここにはいない。国内の企業でなんとか生き残ったものも次々と生産コストの安い海外へと拠点を移していった。

 ハラカ国政府は、失業対策、生活者保護などの福祉対策、景気浮揚のための財政政策などの予算を緊急に組んだが、公共事業による景気刺激の効果はほとんど見られず、あとに残ったのは莫大な財政赤字である。

 しかも、景気が回復しないため税収はのびず、少子高齢化によって社会保障費を中心に歳出圧力が一層高まる傾向にあり、財政の健全化のめどが立たない。

 束の間の栄光に酔いしれたハラカの人々は、一転、出口の見えない暗闇をさ迷い歩くことになる。

 それでも、時流をつかんだIT長者など、進行するグローバルな消費市場、金融市場においては、不況の中でも巨万の富を手にする成功者が現れはしたが、大半の人々がそんな成功とは無縁の、極貧生活へと落ちて行った。かつての総中流社会が嘘のような格差社会の到来である。

 それでも昔のハラカであれば、近隣の者同士が助け合ってなんとか生き抜いていたのであろうが、都市生活化の浸透で、もはや助け合うようなコミュニティの結びつきもなくなってしまっている。個人主義、競争主義の社会では、助け合うどころか、自らが勝ち残ることこそが至上命題であり、その結果、人と人の間にあった強い信頼は、疑念や嫉妬に取って代わられ、お互いがねたみ合い、攻撃し合う対象となって、何かといえば摩擦が生じ、相手の責任追及と自己の権利の主張ばかりが繰り広げられた。ジリ貧の行政に対しても、様々な要求をするだけで、自分たちの力で何か改善策を講じようという動きもなかったし、そんなことができるとも思っていなかった。

 やがて自治体が次々と財政破綻し、企業が集中する中枢都市と地方の格差も進行していく。

 あれほど明るいバラ色の世界に思えていたハラカの社会は、もはやお互いの不信感や将来への不安感の渦巻くギスギスした社会になってしまった。人々は働く意欲を失い(働こうにも働き口がないのだが)、若年層を中心にニートやひきこもりが増えた。助けを求めたくても求め方のわからぬ人々の多くが、自ら命を絶っていった。競争や効率ばかりが求められる極度のストレス社会は、子供にも深い翳を落とし、陰湿ないじめや子供による凶悪な事件も横行してきた。果ては、親の子殺し、子の親殺しや残酷な猟奇的殺人事件などかつてはほとんど見られなかった恐ろしい出来事が、連日のようにニュースとして流れ、もうそれらを耳にしても誰も驚かないか、あるいはむしろ新たな刺激として求めているかのような空気が世間に漂っている。まるで、人間社会が人間という生命体によって形作られているということを忘れてしまったかのような、とても無機質な世の中である。

 この島にかつてあふれていた人々の笑顔は、今はもうない。

続きは下記のアドレスでお読み下さい(中抜きで抜粋していますので)http://www.mskj.or.jp/getsurei/kaneto0712.html

その頃、お隣のポレポレ国はといえば・・・。
やっぱり、相変わらずの其の日暮らしを謳歌していたのである


ところで、ハラカ国は、その後、どうなったのでしょうか?少しだけ、その様子を覗いてこのお話を終わりにしたいと思います。

エピローグ 〜二つの国
 経済も、環境も、共同体も、日々の生活の希望すら破壊されてしまったハラカ国には、もはや風前の灯火と呼ぶのもはばかれるほど、灯火らしき熱も光も見当たらない。

 町は荒れ果て、表には人通りもまばらで、わずかに見受けられる地元住民と思しき人影も、健康状態に何かしら支障をきたしているか、そうでなくとも、その表情には絶望の色を浮かべるのみである。

 船や飛行機の定期航路も廃止され、定期便以外の就航もほとんどない。「この島にやって来る者などない。それを待つ人間もない。そうさな、やって来るといえば、あとは死がやって来るだけさ。」と、住民の間で、誰が誰に言うでもなく呟き合っていたそんな頃、一つの事件が起こる。

 その日は、珍しく少し肌寒さが感じられた。昼下がり、ひと気のなくなった貨物港に、スクラップの山をあさっていた少年の叫び声が響き渡った。
「船だー、船が来たぞー!」「船!?」 船が行き交うことがなくなっていたこの島の沖合いに、船が現れた。しかも、一つや二つじゃあない。確かに大きさはといえば、ちょいと風が吹けば飛ばされてしまいそうな小船で、随分のんびりしたスピードではあるのだが、次から次へと雲霞のごとく沸いてきて、みるみるうちにハラカの島の東岸一帯を覆い尽くしてしまった。

 噂を聞きつけたハラカ国の住人達が、続々と東岸に集まってきた。つぎはぎだらけの帆に描かれた国章はどれも、紛れもないポレポレ国のものだった。ハラカ国の住人たちは固唾を飲んでその光景を見つめている。ポレポレの船から、長老らしき人間が、何人かの供を連れ、慇懃な姿勢でハラカの島へ上陸した。慌てて誰かが叫んだ。
「ポレポレ国の旦那方。わざわざ来てもらってなんだが、ここにゃあもう、盗る物も支配に値
 する土地も、何もありゃしませんぜ!」

長老と思しき人物は、笑ってこう答えた。
「何を言うとるんじゃ。ワシらは、あんたらに食いもんを届けに来たんじゃ。」

それを聞いたハラカの住人たちは、皆一様に驚いた。
「一体なんでだ?」
「ワシらの島にの、あんたらの島から逃げてきたちゅうやつらが、大勢おるんじゃよ。ここんとこ特に増えとる。増えとるちゅうても、ろくな舟ものうて、食うものも食わずに来るんじゃから、命からがらよのう。実際、途中で海に沈んでいく仲間も随分おるそうじゃて。そりゃ、気の毒なもんじゃったから、ワシらはそいつらを介抱してやって、元気になったら、ワシらの島に住むも良し、出て行くも良しと思うとった。じゃが、それにしても、次から次へとやって来る。皆、逃げてきたちゅうとるが、一体何から逃げてきたんじゃ?島に怪物でも現れたのか?それとも戦さか?では地震か?と聞いても違うと答える。じゃあ、何じゃ?と尋ねるんじゃが詳しくは分からん。詳しくは分からんが、じっくり聞くうちに、島にあった便利な鉄の車も、銭を生みだす工場も今は何の役にも立たず、とにかく皆、食うに困っとるっちゅうことは分かってきた。それならば、一刻の猶予もならんということで、皆総出で、野菜や果物や、木の実や穀物を収穫し、魚を獲って、島の舟という舟を集めてやって来たというわけじゃ。ほれ、見てみい。」

 ハラカの人たちが、その老人の指差す方を見ると、浜辺に寄せられたポレポレの船のそこここで、沢山の食糧が積み込まれていることをアピールするように、それぞれの手に持ちきれんばかりの魚やバナナの山を高々と掲げるポレポレの水夫達の活き活きとした笑顔が見えた。やがて、それらの物資が、ポレポレの男達の手で島に陸揚げされて行った。その日のうちにはほとんど飢餓状態にあったハラカの島の隅々に、当面の食糧が行き渡った。

 さらに、同行したポレポレの女達によって炊き出しが行われ、ハラカの人間とポレポレの人間が入り混じって、三日三晩陽気に歌い踊り明かした。ハラカの住人達がとうに忘れてしまった、そしてポレポレの人間たちが今も大事に守り続けている、ゆっくりだが豊かな空気がハラカの島に流れた。

 四日目の朝、ポレポレの人間は自らの島へ帰っていったが、その後もポレポレから食糧の支援は継続された。

 ただ一方的に支援し、支援されるという関係ではなかった。ポレポレの人間が、ハラカにやって来たり、ハラカからポレポレへ学びに行ったりする形で、ハラカの人間たちが忘れてしまった種々の作物栽培を土作りから始めたり、コンクリートをひっぺがえしてポレポレ人と一緒に育てた苗木を植えて森を再生していったりしながら、ハラカがもう一度自らの意思と力で自立するためのチャレンジが、始まったのだ。

 ポレポレの船がやって来て三年目の秋には、ハラカ人自身が育てた麦でパンが作られるようになった。やがて、再生した森から養分が海へと運ばれ、魚たちが戻って来、またハラカの海に漁をする男達の姿が見られるようになった。

 ハラカ国とポレポレ国との交流は、その後も続いた。ハラカ人は自活できるようになったお礼にと、収穫物だけでなく、外国人達が残していった機械を使って洋酒や洋菓子を作って届けた。ある時は、太陽や水や風からエネルギーを生みだす発電装置なども提供した。ポレポレ国の住人たちは、大変喜んだが、それらの便利な道具も決して必要以上には使おうとはしなかった。ポレポレ人は、何事においても、足るを知るということを重んじたのである。

 ハラカの人々も、農業や漁業において、必要以上に収穫しようとしないポレポレ人たちのやり方をきちんと守った。

 自活できるようになって何年目かの秋、ハラカ人とポレポレ人の共同収穫祭の折、あるハラカ人が、ポレポレ人の長老にこう尋ねた。
「なぜ、あの時、あんたらは俺たちを助けたのかね? わざわざ海を渡ってやって来て。」
「なぜも何もない。隣人が困っておったら、助けるのが当たり前じゃよ。」
「だって、俺たちを助けても、なんもアンタらの得にはならんじゃないか? むしろ、損ばっかりだ。」
「ワッハッハッ!お若いの、そう損得ばかりで物事を考えなさんな。人間は、損得勘定だけで動くとは限らんもんじゃよ。フフフ・・。それにな。いずれは返ってくるもんじゃて。目の前ばっかりで見とったら、こっちが損したじゃの、いやこっちの方がちょっと得じゃとなるが、長い目で見たら、どうしてこうして、ちゃんと帳尻が合うようになっとるのよ。ようできたもんじゃ。どっちにせよ、ワシやアンタの知恵も及ばん長い長い時間の中の話じゃがな、ガハハハハ!!」
「しかし・・・」
ハラカ人は言葉を詰まらせ、苦し紛れに継ぎ足した。
「アンタたちは・・、アンタたちはそれでいいかもしれないが、俺たちは助けられっぱなしってわけにはいかねえ。どうにかしてでも、この借りは返すぜ。」
「ほうほう、お若いの、威勢のいいのはいいことじゃが、まあ、落ち着きなされ。貸しも借りもありゃあせん。ワシらがアンタらで、アンタらがワシらじゃったとしても、同じことをしなさっておるわい。お互い、じゃよ。ワッハッハ・・」
長老の高らかな笑いが、祭りの賑わいの中へと溶けていった。空がどこまでもい日であった。

 兼頭氏のこのレポートは此れからの人類が生きていく為に必要な要素が多くヒントとして残してくれているのではないでしょうか?

 彼なら弓削島で何か此れからの地域起こし、人間が人間らしく生きていく為の何かを残してくれる事を期待しつつ、弓削島を後に帰路につきました。
平成20年2月16日
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