第 187 号
徳島県「賀川豊彦記念館」「阿波十郎兵衛屋敷」訪問
 平成22年1月16日(土)偉人館めぐり事業で、徳島県鳴門市にある協同組合先導者の賀川豊彦記念館と徳島市の阿波人形浄瑠璃を紹介している阿波十郎兵衛屋敷を訪問しました。
 賀川豊彦記念館は平成19年にも一度訪問しているところです。この記念館は2002年3月にオープンし全国から寄せられた寄付金で建てられました。賀川豊彦氏は明治の終わりから大正にかけて活躍した人物で、家庭の不幸や・結核の病苦、親族の破産など多くの苦難にまみれながらも、それを乗り越え神戸のスラム救済活動を始め、さまざまな社会運動を指導し、弱者と共に歩み生涯を通じて世界平和の為に身を捧げた人で、混迷する21世紀を切り開く思想と行動の指針を、賀川豊彦氏に求めようとする多くの人々の願望によって開館しています。
 賀川豊彦氏は幼い頃に両親が他界、その後徳島の親類に預けられ、幼少期を徳島で過ごしました。後に兄の経営する会社が倒産、そして結核にさいなまれ苦悩する中で、アメリカ宣教師のローガンやマヤスと出逢います。この出逢いが賀川豊彦氏のその後の活動に大きく影響することになりました。神戸のスラム救済活動、労働者・農民の権利獲得運動や普通選挙運動、協同組合運動、関東大震災でのボランティア活動、世界平和運動、教育普及運動、精神復興運動、幅広い著作運動などなど、すべての活動の根幹に信仰心と愛情を持って取り組まれていきます。
 生協・農協・漁協・医療生協・信用組合等の協同組合の父である賀川豊彦氏。明治の末から大正という時代は、現代とは大きく社会環境も違っていたと思いますが当時の政治は権力・財力が大きな影響力を持ち、一般労働者や農業者には政治への力は無く虐げられた環境でした。
 その状況を打開するために賀川豊彦氏が先導者として活躍するのですが、現在の労働組合運動や共同組合の状況を思うとき、時代の流れの中で変化を余儀なくされることもあったと思いますが、賀川氏が進めた協同組合の本来の意義を、現代の私たちも今一度考え直す必要があるように感じるのです。高度成長期を経てバブルが崩壊、経済活動はかつての状況には回復することなく今なお低迷し、私たちを取り巻く社会問題も近年特に深刻です。まさしく混迷の時代です。権利だけを主張する社会になっているように思えてなりません。問題の解決に相互が歩み寄り、共に力を合わせる共助の姿が見えなくなっているように思えるのです。己の利益を優先するあまりに、本来果たすべき役割が機能しなくなっているのではないでしょうか?!
 これは単に組合組織の問題だけでなく、私たち全員の課題でもあると思えます。今一度それぞれの活動の意義を組織の関係者はもとより、私たち自身が考え直さなければならないと感じました。今の政治にもマスコミの影響もあるとは思いますが、政治の根幹が選挙に勝ち与党になることが最優先され、野党は与党を批判することが最優先される。そこに国の未来や国民の生活は不在になっているように思えてなりません。先人の思いや行動に今こそ学ばなければならない。そんなことを強く感じさせられた記念館訪問でした。

 鳴門市から車で約15分ほど走り、徳島市内にある阿波十郎兵衛屋敷へと向かいました。阿波人形浄瑠璃は、義太夫節の浄瑠璃と三味線、3人遣いの人形の三者によって演じられる人形芝居で、徳島県が全国に誇る伝統芸能であり国の重要無形文化財に指定されて徳島県では大切に継承されています。展示室では人形浄瑠璃の特色や木偶人形(でこにんぎょう)が展示されています。私の小さい頃には箱から恵比寿人形を操る人が正月に家々を回っていたことを記憶しており、子供心に楽しみで「おいべっさん」の愛称で親しまれていました。そのルーツがこの阿波人形浄瑠璃であることが、ここに来て初めて知ることができました。徳島では今もその伝統を継承し、お正月に家々を回る保存会もあるようです。
 屋敷では休日のみではありますが人形浄瑠璃の上演も開催されており、この日も午後2時から30分間伝統芸能を堪能させていただきました。その後、すぐそばにある阿波木偶人形会館を訪ねました。徳島県文化協会会長で人形建でもある春名完二氏が、木偶人形の制作過程と特徴などを丁寧にご説明してくださいました。館内では春名氏の楽しい説明と多数の木偶人形作品を観覧できます。300年以上の歴史を持つ当時の浄瑠璃台本など多くの貴重な関連資料も展示されています。機会がありましたら皆様も一度是非訪ねてみてください。春名氏のお話では人形を作る者にもモラルが大切で、今はそのモラルも低下しているとのお話を聞き、伝統芸能の継承の難しさと現代日本人の大きな課題の波がこの世界にも確実に押し押せているとだと思った次第です。徳島の素晴らしい伝統芸能を学び、また一つ歴史の中で大切にされてきたコミュニティの形成を考えさせられました。
平成22年1月16日
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