第 3 号
日本人の心のレポート
                                                 四国政経塾
 多くの外国人に親しまれた日本の書籍は数多くある。坂井三郎がまとめた「大空のサムライ」も、そんな本の一冊だと思う。
太平洋戦争のドキュメンタリーであり、戦争の虚無さも表現されている。
 教育者として著名であり五千円札で知名度が上がった新渡戸稲造も「武士道」という本を発表している。ただし、こちらは広い世界観を持った彼が英文で書いたものである。
 二つの書物に共通する、サムライ/武士の魂、これは多くの外国人の興味をそそる言葉であると同時に日本人を理解するための、ひとつのキーワードだったのかもしれない。また2冊の本は全くカテゴリーの違う内容ではあるが、今の日本人が何処かへ置き忘れてきた大切な心の基本があるように思われる。
 「忠義」 「誠意」 「礼節」 どれも戦後の日本では忘れられかけている。とりわけ、1970年頃以降バブルに向かう日本では「金」と「時間」というふたつの単語に抹殺されかけた言葉達である。
 何人かの方々と愛国心と道徳心について掘り下げて話した事がある。どちらも最近メジャーな場面では使われなくなってきた言葉であり、ともすれば第二次大戦時代の主役級の言葉と思われがちである。しかし、地方行政や私達の家庭でも突き詰めていくと、おおもとには国の安泰があって始めて成り立つ。その為には国民一人一人の愛国心がなくてはならない。間違った戦争ではあったが、その戦いで多くの人々はこの国を護、身近な家族を守る為に血を流していった事は事実であった。その上に今の日本の繁栄があるとすれば、この国を守る為に国民である我々は常に危機感を持ったうえでの平和を再認識すべきではないだろうか。
 戦後GHOにより、心も教育も方向転換されてきた。また、不幸な事に共産党によって、手貸せ足貸せをさせられた教師達が、教壇に立たされた。
 子供達の個性の芽は、ことごとく潰され、全く別の尺度での「賢い」子が育てられて来た。しかし、それはどこを切っても金太郎飴の様な子供を育てる為の教育でしかなく会社や工場での使いやすい人間を生育してきただけだと思える。
 本来人間が持つべき、生きて行く為のたくましさ、物事に対する旺盛な好奇心や興味を持って創造し考え出していくという事ができる子供は、この様な教育の中では育ちづらいだろう。 「赤信号みんなで渡れば怖くない。」 こんな風刺語にも悲しい日本人の今が見える。平均的で群れの中だと安心する日本人をぴたりと表わすと同時に赤信号が付くことにより、正義や公徳心をも失った事をストレートに表現している。
 「詰め腹をして上意申す。」 とか、 「苦言を提す。」 これは、時代劇でよく出てくる言葉であるが、あえて上司 (殿) に物申す時には、是くらいの固い意思と決意が必要であったのであろう、上司に意見する事自体が考えられなかった時代、その根底には忠義や誠意、礼節が重んじられていた。家族を想い、地域を思い、国を思う、それは武士の時代も今も何ら変わらない。ただ、まともな事や正しい意見を口にする人を笑いのねたにしたり、卑下したりするのは今の時代の特長かも知れない、今の時代を吸収して大きくなっていく子供の未来を考えると、とても不安である。
 「義を見てせざるは勇なきなり。」 論語の一節を新渡戸稲造は 「勇気とは正しいことをすること」 と解釈している。今、最も欠如しているのは道徳的勇気なのかもしれない。
平成13年4月1日
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