機会の学塾訪問
 四国政経塾の塾生になり半年が過ぎました。塾生としての活動や新しい生活にも慣れ始めたころ、自身では二度目となる韓国・釜山にある機会の学塾との交流に行って来ました。

 前回は私にとって初の韓国への訪問、そして久々の海外への旅だったという事もあり、正直なところ勉強や塾生としての交流というよりは、わくわく海外旅行♪的な軽い気分もありました。しかし今回は機会の学塾の皆さんの前で「現代の若者について」という題目の意見発表をする事になっていて、四国政経塾の塾生としても日本人の若者の一人としても大切な役割を担っていると思うと、前回のようにお気楽な新人気分ではいられませんでしたが、その分とても意義のある訪問となったように思います。

 今回の日程は前回と同じく2泊3日で、大和田塾頭、塾生の石川さんと桐内さん、そして私の四名での訪問です。6月29日に程よい緊張感の中で出発の朝を迎えました。前回と同じように車で約4時間かけて関西国際空港へ向かいます。ここまでの国内移動距離がちょっと遠い気もしますが、空港から飛行機で飛び立つとほんの1時間半ほどで釜山空港に到着します。朝出発して昼過ぎにはもう釜山・・・ただでさえ日本とあまり変わらない風景の釜山は、近すぎて自分が海外に来ている事を忘れてしまいそうです。
 空港に着くと機会の学塾OBの方々が笑顔で迎えてくれました。二度目の訪問となると見覚えのある学塾OBの方も何人か居て、久しぶりにお会い出来た事に懐かしさを感じ嬉しくなりました。学塾OBの方々に車でホテルまで送って頂く間、塾生になったばかりの自分が右も左も分からずに訪問した前回の事を思い出しながら釜山の街並みを眺めていました。相変わらず窮屈そうに立ち並ぶ高層マンションやビル群、沢山の車が競い合うように走る広い道路、勉強を始めたけれどまだまだ読めないハングル文字、どれも前回よりは身近に感じられた様な気がします。
 そんな事を思っているうちに、釜山滞在時にはいつもお世話になるお馴染みのクラウンホテルに到着。チェックインして夕食の時間までは各自で小休憩を取る事になりました。初日のスケジ
ュールは、YOO塾主と学塾OBの方々や事務局の皆さんと一緒に夕食を取り、その後で機会の学塾の勉強会に参加させていただく予定です。勉強会での意見発表を前に、内容を確認して少しは練習しておこうかと思いましたが・・・あんまり力むと逆に緊張するので辞めました。
 夕食は、YOO塾主を始め事務局の方々や学塾OBの皆さん久しぶりの再開をした後、釜山の郷土料理を戴きました。今更ながら、韓国の料理は・・・やはり基本的に辛いです。元々辛い物が苦手な私は、韓国訪問に備えて日本でも時々キムチを食べてみたりもしてみたのですが、本場の辛さの前には全く意味のない努力でした。いつか、韓国の激辛料理を美味しいと思える日が来るのでしょうか・・・?

 食事を終えて機会の学塾へと向かうと、自分自身の発表を控えた合同勉強会です。にこやかな笑顔ですが、真剣にこちらを見つめる機会の学塾生の皆さんを前にして、初めて自分が担っている四国政経塾・塾生という看板の重みを実感し、発表を受けたことに少し後悔しました。よく考えれば、機会の学塾の皆さんはそれぞれ社会的地位を確立した名士の方々ばかりです。「うわぁ
・・・意見なんか言って大丈夫なんだろうか?」そんな事を思っているうちに、YOO塾主が四国政経塾の簡単なメンバー紹介をしてくださり、合同勉強会が始まりました。

 まずは大和田塾頭の講義から始まりました。テーマは“人間の生について”でした。内容は「人間はそれぞれ役目を持
って生まれてくる」ということ「世の中に無駄なことは無く
、また無駄な人も居ない」そして「人生の分岐点は出会いであり、それによって人は成長していく」というものでした。講義の中には人間社会においてお金がもつ意味や、欲によって変わってしまう考え方について、自然の生態系の中における人間のあり方や、少し宗教的な見解にまで踏み込んだ命についての内容まで幅広くとても深い内容でした。大和田塾頭の講義が“言葉の壁“を通し機会の学塾の皆さんにどこまで伝わったのかを確かめる術はありませんが、人間が生きていくうえで何よりも大切なことは“感謝する事”であり、日常の中でも感謝の気持ちを忘れず、相手を尊重し、自分が変わる出会いを大事することで、学びそして成長していけるのだと熱く語る大和田塾頭の姿は塾生の一人として誇りに思えました。自分自身の発表を前に、どうやって上手く言葉を伝えようか迷っていましたが、塾頭の講義を見て「大切なのはどんな言葉を使うかではなく、伝えようとする気持ちだ」と教えられました。

 大和田塾頭の講義が終わり、小休憩を取った後にいよいよ自分の意見発表です。私の発表の通訳は、日本語、英語共に堪能で通訳経験の豊富なミカさんがしてくれる事になり、とても心強か
ったです。発表後には「日林さんの塾報読んでますよ。だから今日の通訳も自然に出来ました」と嬉しい言葉もかけてくださったので、この場を借りて感謝の気持ちを伝えたいと思います。ミカさん、素晴らしい通訳を本当にありがとうございました。

 私が今回の発表のテーマに選んだのは「現代日本の若者について」でした。機会の学塾の皆さんは知識人の方々ばかりで、私にはそんな皆さんに何かを説く知識も経験も足りません。自分が伝えられるのは、日本に住む同年代の若者の現状と自分自身の考えだけだ、そう思ったからです。自分自身が教えてもらう立場になることで、皆さんとの距離を縮められたらと思い、意見交換出来るようなスタイルの発表内容にしました。
 まずは、現代の若者が抱える問題点を伝えました。努力することを苦手とする満たされた時代に生きる若者について、自己中心的な思考の蔓延、未成年犯罪の増加、家族愛の欠落やフリーター問題などのありのままの現状を伝えました。失ってしまった日本人としての心「志や礼節」などについても触れ、メディアやネットによる情報の氾濫についても話す事が出来ました。発表を進めて行く中で、皆さんから沢山の意見や質問を頂けた事でとても意義のある内容となり、これらの問題は日本だけではなく、韓国はもちろんこれからの時代を担う世界中の若者にとって、正面から向き合い解決して行くべき問題だと認識することが出来ました。また、韓国から見た日本、今まで知らなかった韓国の若者の姿、韓国の兵役制度についてなど、普段なかなか聞けない意見を頂けたことはとても勉強になり、機会の学塾の皆さんと真剣に意見交換が出来た事は、自分自身の人生にとっても貴重な経験となりました。私のこの貴重な経験も、大和田塾頭とYOO塾主の厚い信頼関係の上に成り立つ姉妹塾交流があって初めて実現する事であり、発表を終えて改めてその絆の意味を実感することが出来ました。その絆を繋ぐ一人として、自分が参加できたことに感謝します。
 続いて塾生の石川さんが、機会の学塾との交流の中で環境ビジネスを展開し、潟eック仲通という会社を立ち上げ、利益を得る段階に至ったという事で、感謝と共に機会の学塾に売り上げを還元するという形でYOO塾主に渡すことが出来ました。いつかは自分にもこういう日が来ればと石川社長の姿がとても眩しく映りました。これからの潟eック仲通、そして石川社長の活躍を私自身も応援していきたいと思います。
 最後に機会の学塾の皆さんと一緒に、「出会いに感謝しよう」という内容の歌を韓国語で歌い今回の勉強会は終わりました。勉強会の後はホテルに戻り、反省会をして訪問初日のスケジュールを終えました

 二日目は、韓国有数の観光リゾート地でもある海雲台区の区役所を訪問し、APEC会場の見学をするという日程でした。朝食をホテルで済ませ、YOO塾主そして機会の学塾OBの方々と一緒に海雲台に向かいます。あいにくの曇り空で、やはり韓国も梅雨真只中のようです。

 区役所では、Bae, Duk Kwang区長に直接面談し色々とお話をお聞きすることが出来ました。多忙な重職の方が時間を割いてくれるということで、大和田塾頭とYOO塾主を初め、一同緊張した雰囲気だったように思います。

 まず区長から海雲台区の簡単な説明を受けました。
 海雲台区の人口は約42万人で、豊かな自然や天然の温泉などの資源を活用し、マリンスポーツやレジャー施設を中心に発展した海沿いの街です。過去10年間を見ると、人口は10万人ほど増加しているとの事で、映画のロケ地にもなったり、区長が韓国一だと教えてくださった韓国有数のビーチがあったりと、とても魅力的な街だと感じました。
 日本人の観光客について質問すると、ヨーロッパやアメリカからの観光客は増えていますが、近年の円安の影響もあってか、日本からの観客は減少しているようです。その他にも、区が独自で行っている取り組みの内容などを色々と教えて頂けたのですが、その中に17歳以下の子供の指紋を取り、住民登録しているという驚くべき内容がありました。韓国でも初の取り組みで、迷子などの対策として利用され、かなりの成果を挙げているという事でしたが・・・日本ではちょっと考え付かない発想でとても勉強になりました。
 また、海雲台区と我々の住む愛媛の県庁所在地・松山市との姉妹都市提携についてご質問を受けました。国際間の姉妹都市提携となると、簡単に答える訳にはいかない内容ですが、もし実現に向けて四国政経塾として何らかの協力が出来れば、日韓交流においても意義のある活動内容になると思います。 区長との面談の後、記念撮影をしてもらい区役所を後にしました。

 次に向かったのが、2004年に首脳会議の行われたAPEC会場です。きれいに舗装された海沿いの松林遊歩道をしばらく歩いていくと目前に大きなドーム型の施設が現れました。まるで海沿いの松林に着陸したUFO?のような、その施設の中では真っ赤な絨毯が敷き詰められています。海を見渡す景色も素晴らしく、流石に首脳会議に使われた施設だと感心しました。最近テレビでも見ることが少なくなった、当時の総理大臣・小泉元首相の写真もあり、少し懐かしく思えました。施設内を一通り見学した後、周辺を散策して昼食を取ることになりました。この日の昼食はバイキング形式で、韓国で初めて辛くない料理を堪能できたので、私としては大満足でした。この昼食で韓国の方々の食欲を目の当たりにして、韓国人のエネルギッシュな理由が分かったような気がします。男性はもちろん、女性の皆さんも凄まじい食欲でとても驚きました。YOO塾主が「日林君、韓国人の女性と結婚すると食費を稼ぐために大変だよ?」と冗談を言われていましたが・・・正直、冗談には聞こえなかった気がします。APEC会場見学の間や昼食では、機会の学塾の皆さんと色々話せる時間がありとても有意義でした。言葉の壁はありますが、こういった時間をこれからも大切にして、少しずつ絆を深めていければと思います。

 昼食を終えると、デパートで買い物をする機会がありました。韓国滞在中はいつも思うことなのですが、やはり日本とほとんど変わりません。デパートでは、韓国語のPC用キーボードを購入し買い物を終えました。その後、一旦ホテルまで帰り機会の学塾の皆さんと別れた後、4人で近くにあるマーケットに行きました。石川さんが娘の為にとTシャツを一生懸命選んでいる姿が印象的でした。

 その日の夕食は、機会の学塾創立時から大和田塾頭と10年来の交流があるという、ヤン会長と取ることになりました。ヤン会長は釜山でも、有数のIT関連事業を展開されているという事で・・・運転手つきの高級外車でのお出迎えに、自分としては何とも言えない気分になりました。とても明るく気さくな方で、日本語も堪能でした。一緒に韓国焼肉を食べながらこれからの情報化社会におけるビジネスのあり方など、とても為になるお話を聴かせて頂けました。韓国訪問時に限らず、大和田塾頭の人脈の広さには本当に驚くばかりです。食事の後は、ホテルに帰りゆっくりと休みました。

 3日目はいよいよ帰国の日です。朝から機会の学塾の方々が迎えに来てくださって、空港まで向かいました。いつも変わらぬ笑顔で迎えてくれる皆さんの暖かさに感謝し、いつか自分が迎える側になった時には恩返したいと思いました。

 今回の機会の学塾訪問も貴重な体験の連続で、私にとって素晴らしい経験となりました。言葉の壁や一方通行になりがちな交流内容の見つめ直しなど、今後の交流に向けての課題も見つかりましたが、前向きに努力していきたいと思います。そして国境を越えた人の絆の強さや暖かさを改めて強く感じる旅となり、今後の韓国との交流において自分自身を含めた四国政経塾の一人ひとりが担っている、継承という大きな目標を再認識出来た意義のある訪問となったと思います。
平成19年6月30日
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